新しいマンションでガスの開栓の立ち会いをして、水道栓を開き、電灯を取り付け、
明日からここで暮らすのか
と思いつつ、まだ現実味がありませんでした。
そして、今の家に戻り、妻と引っ越しの荷物詰めを終わらせました。
出るわ出るわ、不要品が。
広い家にあぐらをかいて、処理を後回しにしたツケを一気にくらいました。
夕食後、妻と
ここのマンションは楽しかったね
キレイ過ぎてドキドキした
昇進のお祝いとかしたね
という話をして、少ししんみりしたところで、
次は古いマンションをキャッシュで買っ
て、好きにリノベーションしたい!
と妻が言いました。
妻はいつも前向きです。
私が暗い顔をしても、背中を叩いてくれます。
いつも支えられてばかりです。
公務員時代は誰よりも早く昇進、出世争いの為に仕事をしました。
苦しむことが仕事で、苦しんだ結果として金を得られるのだと思っていました。
この歳まで全く疑いませんでした。
しかし、苦しんで得た地位も、上司に睨まれ全て失ってしまいました。
組織に属する以上、生殺与奪の権利は上にあります。
睨まれてしまってはもう、私の言葉に耳を貸す者などいません。
近づけばその者も私の二の舞だからです。
一気にチカラが抜けてしまいました。
この15年は何だった?
プライベートも子供も諦めて得たモノ
を、こんなにあっさり失うのか?
しかし、組織にしがみつく気にはなれませんでした。
失ったその日に妻に全てを打ち明けました。
妻はうんうん、と聞いた後
あんたは何がしたい?
したかった事ない?
と聞かれました。
そういえば、学生時代、経済的理由から断念した、鍼灸学校の事を思い出しました。
妻に
学生の時は鍼灸師になりたかった
でも学費が高くて断念した
と伝えました。
妻はすぐに電卓で何やら計算して
じゃあそれ、やってみ
もう十分がんばったじゃない?
こんないいマンションに住まわせてもら
って幸せやった
私はもう十分楽しんだし、次はあんたが
自分のために生きてみたら?
と言い
マンションは売らないとだけど、その代
わり、私たちは組織のしがらみから解放
されて、自由になれるわ
とも言いました。
言葉が出てきませんでした。
自分のために生きる?
妻も悔しいに決まっています。
家を離れたくないに決まっています。
でも私にそれを感じさせないように気丈に振る舞っています。
私は妻の気持ちに甘える事にしました。
今年40歳、学校を卒業する時は43歳。
かなり遅めのスタートですが、初めてやりたい事ができる環境に戸惑っています。
妻は
早めのセカンドライフやで
借金もなくなるし、自由になるんやから
暗い顔すな!
私は楽しみやで
と言ってくれます。
妻の為にも、頑張らないといけない。
そして妻と約束した
自分のために生きること
も実践しないといけない。
不安ばかりですが、妻がいれば頑張れると思った引っ越し前夜でした。